華代ちゃんシリーズ番外編
がんばれジャガーズ
初めまして、わたくし、あの、その、え〜と華代と申します。
え、「真城」じゃないのかって、え〜あの〜わたくし、先輩達のような一人前のセールスレディではないので、まだ、「真城」は名のれないのです。でも、けっしていいかげんな仕事はいたしませんので、よろしくお願いいたします。
ここ２０数年、最下位をうろついていた関西の球団「ジャガーズ」に、現在の球界一の熱血漢で有名な監督が就任して初めてのキャンプが始まった。だがすぐに、監督の頭の血管がぶち切れた。
「バカヤロ〜！おまえら、それでも、プロか。まったくど素人集団か。お嬢様球団だよ。ここは・・・」
監督は､この球団を引き受けた自分の軽率さを悔やんだ。創立当時は､人気バツグンの球団とトップを争うほどに強かったのだがいつの間にか球界の恥､大荷物球団と呼ばれるようになってしまった。監督も子供のころはこの球団にあこがれた事があった。そして、監督の友人でもあるコーチは､この球団が華々しい活躍をしていたころの選手だった。だが､それが最後だった。坂を転げ落ちるように順位が落ち、今では最下位に居座っている。
その球団を立て直すために招かれたのだが、思っていた以上のグータラぶりについに切れたのだ。
「こいつら､どうにもならないじゃないか。あれでもプロか。」
選手達のあまりの不甲斐なさに怒り心頭の監督は､監督室に戻ってもその怒りは収まらなかった。
「俺はこのチームを優勝に導くためにやってきたのにこれでは何にもならないじゃないか。」
とそこへ監督の旧友のコーチが入ってきた。
「監督どうしたのですか。」
「ああ、君か。このチームはどうなっているんだ。選手たちに勝とうという意識がまったくない。」
「それは、ここ２０数年負けっぱなしなので仕方ありませんよ。」
「ばかやろ〜。コーチがそんなことを言ってどうするんだよ。でも、確かに負け癖がついているな。どうにかしなくては・・・」
二人はお互いに顔を見合わせるとため息をついた。
「はあぁ〜。」
それほど、チームの状況は深刻だった。
「あの〜すみません。」
「ん？」
ドアのほうから聞こえてきた声に気がついてコーチが振り向いたが、そこには誰もいなかった。
「気のせいか？」
「あの〜ここです。」
また聞こえてきた声に、監督とコーチが、声にしたほうに振り向くとそこには肩からウサギのポシェットをかけた7歳ぐらいの女の子が立っていた。
「お嬢ちゃん。どうしたの？道に迷ったの？ここは関係者以外入ってはだめなんだよ。」
「まあまあコーチ。ちっちゃなファンでも大事にしなくちゃ。お嬢ちゃん、ジャガーズの誰のファンなんだい。」
その女の子は、不安そうな顔をしながら首を横に振った。
「監督の顔が怖いんですよ。お嬢チャン、この人の顔は怖いけど優しい人なんだよ。どうしたんだい。おじさんに話してごらん。」
女の子はおずおずとポシェットの中からかわいらしいピンクのカードを取り出した。それにはこう書かれていた。
【ココロとカラダの悩み解決いたします。 真城華代研修生 華代】
「わたし、セールスレディ見習いなんです。でも、お仕事はちゃんとしますから・・・決してお金なんかいただきません。お困りのことは何でしょうか。」
女の子は真剣な顔をして二人に訴えた。
「こんなかわいい女の子すらどうにかしようとしているのだ。俺たちもがんばらねばな。」
監督は、決意を新たにした顔をして、コーチのほうを見た。
「はい、そうですね。監督。」
「あの〜わたしのお仕事のほうは・・・」
「心配要らないよ。ちゃんとチームを立て直して見せるから。」
監督は、女の子の手を握って、そう約束した。
「でも監督。あのどうしようもない奴らの処分を考えないと・・・」
「そうだな。コネと昔の成績だけでいるあの給料泥棒どもをどうしよう？トレードもできないし、首にしようにも、フロントがうるさいからな。表面は協力するふりをして、内情はまったく別だからな。」
「そうですね。いっそのこと、お嬢さんだったら、まだ使い道があるんですがね。」
そうつぶやく二人の会話を聞いていた女の子がうれしそうに、二人に言った。
「その、やる気のない人たちのやる気を出させればいいのですか。」
「そうだよ。でも、そう簡単にはいかなくてね。」
「それ、わたしにやらせてください。」
「お嬢チャンが・・・」
「いいじゃないか。こんな小さなファンでも力になってくれるというのだから。お願いするよ。お嬢ちゃ・・・いや、華代さん。」
「はい。」
監督の言葉に、しょげていた女の子は元気になった。そして、ポシェットの中から分厚い辞書のようなものを取り出すと、捲りだした。
「それはないだい？」
コーチはそれを覗き込むようにして聞いた。
「これは、依頼を完璧にこなす為のマニュアル集なんです。選手をやる気にさせるには・・・・・と、あった。はい、いまからご依頼の件をおこないます。」
そういうと、女の子は、なにやらつぶやいた。すると・・・・
「おい、何か身体がムズムズしないか？」
「監督もですか？実はわたしも・・・あ！」
コーチは、監督を見て声を上げた。がっしりとして日焼けした監督の体が、縮みだし、肌の色も白くなってきた。髪は伸びだし、胸も膨らみだした。
「コーチ。お前大丈夫か。」
監督の男らしい声が甲高く優しい声に変わっていた。
「こ、こえが・・・・」
コーチは、監督の変化に気を取られて気づいていなかったが、コーチの体にも変化が現れていた。少し小太りのコーチの体は引き締まっていき、スリムになっていった。そして、胸は風船のようにふくらみ、腰は、細くなり、その分な脂肪が、胸へと動いていった。
「これはどういうこと・・・・よ。なにをしたの？わたしたちに・・・いや〜〜〜話し方も変わってしまったわ。」
さっきまで、熱血監督がいたところには、長い黒髪のきめ細かい日本人形のようなしとやかな美少女がだぶだぶのユニフォームを着て立っていた。一方、コーチがいたところには、スリムでキュートなレースクイーンなんか、足元にも及ばない美女が、たるんだユニフォームを着て立っていた。
二人は変わり果てたお互いの姿に抱き合って泣き出してしまった。
オープン戦の開始とともに、ジャガーズは、スポーツ関係の話題を独占してしまった。
【美少女監督と美人コーチ。彼女たちのために俺たちは命をかける。】
【美少女監督と美人コーチ。ジャガーズは、野球をなめとんのか！】
選手たちのコメントと球界関係者のコメントが毎日のようにスポーツ紙や、スポーツニュースに飛び交った。
だが、選手たちが言葉どおり、ペナントレースを勝ち進み、２０数年ぶりに優勝してしまった。そして、優勝を決した試合終了後に監督とコーチの身体が宙を舞ったのはいうに及ばない。
蛇足ながら、この出来事以後、女性監督やコーチが各球団にも誕生した。
今回のお仕事は、何とか成功したみたいです。やはり、男の人ってきれいな女の人に弱いんですね。
先輩たちの経験から作られたマニュアル集に書かれたとおりにやってみたんですけど、スゴイ。でも、わたし、まだ見習いだから、着ているものまでは変えられないけど・・・・